前回の続きである。ドルトムント、ハノーファーと2連続で意中の電車に振られ、失意のまま移動をする。
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大本命のハノーファー市電239号の撮影が望み薄ということでこのまま企画終了まで残るモチベーションも無く、ほどほどに中央駅に戻ることにしたが、この帰りの電車がなかなか辛いものであった。この日は5月初旬の割には妙に日差しが強く、気密性の高い割に窓のデカい電車はその日差しを存分に受けてホカホカと温まっていた。それに加え239号が来ないことでヤケになり2年前と同じ場所(メーデーイベント実施)で飲んだビールの酔い、そもそも都心部に近づくにつれて増えて行く乗客と、体感温度が下がる可能性は全くない。涼しそうなドア近くに陣取るというムーブも今座っている椅子を放棄することには代えがたいもので、結果として40分ほど地上線を揺られているうちにすこし体調が悪くなってしまった。中央駅のスーパーで水分(ここは硬水を買うべきだったのかも)を補充し日陰になっている大階段で30分ほど休憩したが、まあその程度では完全回復とはいかない。しかもこの日は夜行列車に乗る為、ホテルに即時チェックインしてベッドで休むという選択肢を取ることができない。

若干デバフのかかった頭で考え抜いたところ、電車に乗って気分を紛らわせることが最善だと判断した。ハノーファーの近隣にブラウンシュバイクという町があり、ここにも路面電車が走っている。これを訪問して刺激を受ければ体調も回復するだろうと思った。電車オタクの執念である。

ハノーファーからブラウンシュバイクはそう遠くなく、ICで30分程度で向かうことができる。事前の下調べをほとんどしていない町であること、その日の夜行列車発車時刻までに絶対にハノーファーまで戻らないといけないことを考えて駅前で電車をすこし見ておしまいにすることにした。
…今にして思えば、かなりの愚行である。どこで電車を撮るかとか考えなくても駅前で満足せずに旧市街地ぐらいまでは足を伸ばすべきであろう。それこそIC乗車中の30分間で最低限は調べておくべきであった。もう仁和寺の法師を馬鹿にできないねぇ。

駅の外に出てみた。規模感は前日のヴッパータールぐらいで、飲食やスーパーが入居している程度である。ガラス張りの部分より上は恐らくオフィスか何かだろう。一般人が入れるようには見えなかった。

駅前にはもちろん路面電車の電停がある。電車軌道を挟むようにバス乗り場があり、大屋根がそれらを一括で覆うといったものだ。何度も言っているかもしれないが、幼少期から広島電鉄に触れてきたぼくはターミナル電停は大屋根で覆ってナンボと思っている。カッコいいし。

ブラウンシュバイク市電の面白いところは線路にある。写真を見ればわかるように、この区間の線路はレール3本で成り立っている。
ブラウンシュバイク市電の軌間(2本のレール間の幅)は、ヨーロッパの大半を占める1435mmよりも狭く、他都市(2日目に訪問したカッセルなど)のように路面電車と鉄道線を直通運転できなかったようだ。それを解消するために、市電のレールの外側にド1435mm向けのレールを敷いて直通運転を目論んだとのこと。(片方のレールは共用し、反対側のレールを使い分ける)これ自体はここが特殊なわけではなく、同じドイツの都市ツヴィカウでも3本のレールを敷いて鉄道線車両を路面に乗り入れさせている。

問題はこのブラウンシュバイクではその直通計画がとん挫したことである。直通運転用として外側に敷かれた3本目のレールは上に1度も列車が通らないまま放置されているのである。なのでプッツリとレールが途切れてしまっているのである。
ちなみにこれが当時知っていたブラウンシュバイク市電唯一の事前情報である。これを見たので満足し、ハノーファーへと戻ることにした。もったいねぇ~

その他、駅前に機関車が保存されていた。なんだろう。

ブラウンシュバイク市電の車両である。よくよく見ると4車体である。普通、4車体というのは2車体+2車体とか、3車体+1両で構成される例が多いので、4車体固定というのはちょっと新鮮かも。

駅前を見ただけで満足してしまった人間はそのままハノーファーへと戻った。復路はREである。ドイツ鉄道から運行を委託しているWestfalenBahnという会社の車両だった。

戻ってきた夕方のハノーファー駅前は昼間に訪問した時とは異なり、何かイベントが実施されていた。何のイベントなのかはよくわからないが、飯を探しにKröpcke駅まで1駅分ほど歩いてみることにした。
…しかしなんかパットするものがなく、結局駅構内のバーガーキングに落ち着いてしまった。シンガポールの空港内で食べたところ、またハンバーガーかよと思うかもしれないが、飯の妥協点としてこの旅行中にあと2回世話になることになる。それでいいのか。

そんなこんなで適当に時間を潰していたら、夜行列車の発車時間が近くなってきた。2年前の旅程と同じくハンブルクからやってきた夜行列車nightjetに乗りこみ、これまた2年前と同じくオーストリアの首都ウィーンへと向かう。
前回は2回の利用でクシェット中段・下段を選択し、次は上段にしようかなと思っていたのだが、この2年で事情が大きく変わった。その理由は、ぼくのブログを参考に上段を使ったオタクが上段に大層苦しめられたという点である。
どうやら、僕が朝まで気兼ねなく横になれると憧れていたnightjetの上段は部屋の空気がこもるのか暑すぎて眠れないというのである。これは困った。それでは上中下段全てダメではないか。

…と思っていたが、もう一つ変わった事情がある。それはこのnightjetに新型車両が導入され、それに合わせて新しい設備「ミニキャビン」というものが登場したという点である。このミニキャビンに乗りたいと思い、クシェットではなくこちらの設備を使用した。

ミニキャビンがどういうものかというと、端的に言えば走るカプセルホテルである。立ち上がることはできないが、内鍵から部屋を完全に施錠することが可能で、さらに個別の電源に照明制御までできる優れものだ。前回の3段クシェットと比較すると設備に差がありすぎるのだが、それでもユーレイルパスで乗ると比較的良心的な割引価格(39.90€)でこの個室を確保できるのだ。これはかなりすごいぞ。

シャッターを閉めて足をのばした景色である。ぶっちゃけ施錠できるという点ではカプセルホテルよりも上質である。大柄なヨーロッパ人の体格に合わせて作られた車両なので中肉中背の日本人には十分に広い。そのうえで移動もできる。

室内灯はLEDで白色の他に様々な色へと変えることができた。これは赤色…ではなくピンク色の部屋にした場合。エッチな気分になるかもしれない。
昼間にちょっとだけグロッキーになったせいもあってか、そう時間もたたずに眠りへと落ちた。
続く。