前回の続きである。ドイツのカッセルという町で変な駅を見て、10分で満足して次の目的地に行くところからである。
最初から読む場合はこれ
さて、Niederkaufungen Mitteから折返しの電車に乗り市内へと向かう。この日の宿はヴッパータールという場所にありカッセルからは数時間ほど移動する必要がある。あちらの町での徘徊にも時間を割きたいということもあり往路で目を付けた一番の繁華街と思われるエリアにのみ焦点をあてることとした。
Königsplatzという電停で降りた。円形の広場の真ん中を電車が貫く大胆なロケーションである。目論見通りの繁華街でこの電停含む一帯はトランジットモールになっていた。前回の訪欧、あるいはメルボルンなど毎度毎度トランジットモールを見るたびに感心している気がする。そりゃ、幅の広い歩道に路面電車軌道が乗り入れてきて、そして市民が軌道と歩道の区別無く縦横無尽に歩くなんて、路面電車のある町広島で育ってきた身分としてはとてもうらやましいものである。
後ろを向くと路面電車が団子運転になっていた。トランジットモールは普通の道路と違い路面電車のすぐ隣にいるのは人間という予測不可能な行動をする存在である。そのため区間内の路面電車はすぐにでも止まれるような低速で走る必要があり、結果そうじゃない区間と比べると詰まるのである。そんなデメリットはあるものの、目的地になりうる(通過需要がそこまで存在しない)エリアで広い歩道からそのまま乗れるというメリットで帳消しにできる程度のものだ。
偶然にも見たかった車両が通りかかったので撮影した。これはレギオトラムというもので、郊外鉄道線から路面電車区間に乗り入れてくる車両だ。見てくれは他の路面電車と大差ないのだがこの車両の一番の特徴は動力である。通常の路面電車としてもちろん電気で走る他、架線の無い郊外鉄道を走るためにディーゼルエンジンを積んでいるらしい。なかなかデキる電車(気動車?)である。
すこし西に歩いた別の広場では、遠めに荘厳な建物が見えた。どうやら美術館のようだ。面白そうなので訪問…ということはぼくの旅行では今後も無いので安心してほしい。遠目に見るだけで終わりである。とはいうものの、こういう数百年は経ってそうな古い建物が残っているのはうらやましい。日本だと様々な災害で崩れてしまいそうだし。
路面電車を眺めながらお外のテラスで一杯。真昼間からこれをやってしまえば絶対に気持ちがいいだろうなあと思いつつも、仮にそれをやってしまうとこの先の時間が削れてしまうし、財布にも優しくない。泣く泣くパス。
カッセルにはもう一つ見ておきたい場所があった。それはHbf、つまり中央駅である。前回の記事を読んでいただくとわかるのだが、このカッセルでは中央駅に乗り入れる長距離列車は少なく、ほとんどの列車がWilhelmshöhe駅のみを経由するからというものあるが、この駅はこの駅でなかなか面白い構造をしているらしい。中央駅へは先の広場からレギオトラムに乗って向かったが、乗って地図を開くと四角形の3辺を通るような遠回りのルートを通っていた。階段を上ることにはなるものの歩いてもさして時間はかからなかった。
レギオトラムは中央駅に入る手前、道路の真ん中にある路面軌道から地下へと降りて行く、そして地下トンネルを慎重に進んで駅構内へとたどり着いた。
これがそのカッセル中央駅レギオトラム乗り場である。一見すると左右のホームより一段低いだけの電停に見えるが、実はこの乗り場は急坂の途中にある。坂道発進必須、運転手泣かせの電停である。なぜそんな坂の真ん中に電停があるかというと、路面電車と郊外鉄道を直通させるために駅舎のこっちの郊外鉄道と駅舎の向こうの路面軌道との間を強引に接続したからである。そのまま郊外鉄道のホームから線路を伸ばしてしまうと地上に鎮座する駅舎を破壊してしまうため、地下のトンネルを経由させたわけだ。その結果として坂道の途中に電停が生えてしまったというわけだ。何を食ったらこういう発想になるんだろう。
駅舎側から見るとこのような感じになる。いかに坂の途中に電停があるかがわかるだろう。ホームを覆う大屋根と、そこに開けられた天窓から直接ホームに日光が差し込んでくる姿が美しい。
カッセルに満足したので次の目的地へと向かうことにする。Wilhelmshöhe駅へはバスで向かい(1日券が電車もバスも共通で使えるのは嬉しい)、ICE680便へと乗り込んだ。偶然ではあるがホームに降りている途中に乗る予定の1本前の列車が(遅れて)やってきた。そんなこともあり撮影もできなかった。
乗り込んだは良いが座席が一通り埋まっていた。飛び乗りなので指定を持っているはずもなく、仕方が無いのでデッキで立つことにした。反対側のドアの部分では迷彩服を着たガタイの良い兄ちゃんがスマホで映画を見ていたのだがやっぱり軍人なんだろうか?
ハノーファーに着いた。2年ぶりである。カッセルから目的地ヴッパータールへ移動するには東西方向の最短ルートをチンタラ走る列車に乗るという選択肢もあるが、一旦ハノーファーまで北上しICE同士を乗り継ぐのも時間的にはあまり変わりが無いようである。2年ぶりで勝手知ったる駅である。ここで次の列車までに飯を調達した。健康は意識することもなく、コンコース内のスタンドでカリーブルストを購入。駅前広場で平らげた。満腹にはならなかったが夜までは持つぐらいの塩梅だ。
ハノーファーで少々電車を見ていると、奥のホームに三脚を立てている少年どもがいた。一目見ただけで何者であるかは分かった。アレはこちらの世界の撮り鉄だ。何かしらの列車を待っているのだろう。一応、そのホームに向かってみた。
古そうな機関車が鎮座していた。これ目当てだったんだろうか?詳細は分からなかった。聞いてみようかと思ったが聞いたところで知らない車両の話が出てくるだけだろうし、次の列車も近かったのでやめた。
次のICEに乗りこんだ。ハーゲン、ヴッパータールを経由してケルンに向かう列車である。2年前のGWにケルンからハノーファーへ移動したのとはちょうど逆の経路となる。今度の列車はは先の列車ほど混んではおらず、1両探して椅子を確保することができた。進行方向逆向きで通路側ではあるが、座れるだけ感謝である。ゆったりまったり、ぼんやりと外の景色を眺めていた。
ハーゲンの駅を出発し、次は降車駅のヴッパータールである。もう10分程度で到着するといったところで小さな駅に停車した。運転停車だろうか。最初は何の意識もせずに車内で発車を待っていたのだが、5分経っても10分経っても動く気配がしない。車中の他の客はぞろぞろと自分の席を外し、外へと出ていった。この時点では全くもって何が起きているのかは分からない。
Ennepetalという駅だった。見るとこの列車から降りたと思われる客がタバコを吸ったり、ホームの端の方まで行って駅の先を見ている。乗務員もホームでお手上げ何か談笑している。
ICE車内Wi-Fiのポータルサイトを開き、この列車の運行情報を見てみると「SIGNAL TROUBLE」の文字。つまり、信号故障である。なんだと?
こうなっては仕方がないと運転再開をホーム上を徘徊しながら待つことにした。この駅は都合が悪いことに他の鉄道路線との接続も無く、仮にバス等で近隣の駅に抜けたとしてもその先の列車(Sバーン)が動いている保証もない。ヴッパータール現地での滞在時間が削れていくことを恨めしく思いながら運転再開まで首を長くして待つ以外の選択肢は存在しなかった。こちらは言語が分からないが、少なくとも他の乗客がホームに出ている間はこの列車も発車することは無いだろう。
1時間ぐらい経過したところで、このホーム上の客の手荷物が一つ増えていってることに気づいた。それは水色の紙ボトルでWASSERと書いてある。つまり水だ。食堂車で配布しているようで、ぼくも一つ調達した。もしかして復旧までここからも結構時間がかかる…ってこと!?
水を貰ってからほどなくして何かアナウンスがあり、他の乗客が車内へとゾロゾロ戻っていった。ぼくも元の席へと戻り無事に列車が動き出した。正味90分遅れである。いやまあ今後の旅程には響かないんだけれども単純にヴッパータールを楽しむ時間がそれだけ減ったということで、DBが憎い。
ちなみにこの列車、今日(2025/7/1)は180分遅れているらしい。常連遅れ列車なんだろうか。
そんなこんなでヴッパータールに到着。Central StationからSバーンに乗り換え2つとなりのZoologischer Garten駅で下車した。滞在時間は短くなってしまったが、この町名物の乗り物を堪能してみようと思う。
続く