新しい風に乗って

大変な途中下車(物理)をやっています。VRM成分はありませんよ。

東名阪エクスプレス31号

20XX年Y月Z日金曜日、22時34分。私は池袋駅にいた。

一番南側のJR改札を出て右へ進み池袋のマスコット、いけふくろうに至る手前に数段ほど何の変哲も無い階段があるが、ここで視点を左側に向けると商業施設のような木目調の階段が見える。この階段を上がるとそこは受付であった。そう、ここが池袋夜行駅である。JRと西武の線路のわずかな隙間に駅舎と、JRの1番線と線路を共用したホームがある。今日はここから東名阪エクスプレス31号に乗車する予定だ。

東名阪エクスプレス、かつて夜行バスを営んでいた事業者である。その名の通り、東名阪エクスプレスバスの名で東海道を中心とした路線を展開していた。従来の夜行バスの概念を覆すような新しい取り組みや、絶対的な需要の多さから高い乗車率で推移したものの人材難により増便が不可能な状態であった。

時を同じくして、国は鉄道事業の規制緩和を行った。これによって既存の鉄道事業者のみならず、車両だけ保有したうえで他社の線路を走らせる事業の認可が下りやすくなった。これによって地方ローカル線や観光路線を大手旅行代理店の持つ団体列車が走行するようになっていた。

東名阪エクスプレスはこれに目をつけた。バスの増便を行うことが不可能な状況では、鉄道の持つ大量輸送性というのは大きな魅力であった。

もちろん、夜行列車を運行することは簡単ではなかった。まず大きな理由に、線路を借りているということがある。他社から線路を借りている以上、車両や運行時間において他社の都合に合わせる必要があるほか、その会社の利益を吸収する状態では線路使用の許可が下りなかった。そのため、同じ区間を走る新幹線の終電が出発後、始発までに到着することが必要であった。

発着地点についても課題があった。大都市近郊では新たに駅を作ることは難しかった。またJRは既存の駅に乗り入れるための条件として、磁気券の導入があった。早朝あるいは深夜の人員の少ない時間に満載の夜行列車が到着することに生じる混乱を懸念したためである。しかし、鉄道事業に関しては一から立ち上げる東名阪エクスプレスに磁気券を導入することは大きな負担であった。それでも乗客の利便性あるいはバスからの転移を促すにあたっては既存の駅への乗り入れは譲れない条件であった。

その解決策が冒頭の池袋夜行駅であった。隙間の敷地を活用することで既存の駅に隣接するという利便性を確保したほか、JRと線路を共用することで完全に独立したコンコースを設置することができ、線路を新設する負担も存在しなかった。さらに都合がいいことに、東名阪エクスプレスと同様に夜行列車参入を画策していた仙台方面の東北ライナーと共同で建設を行うことに成功し、費用負担をより抑えることが可能となった。

 

階段をのぼった先、池袋夜行駅の1階フロアには、窓口と待合室、そしてシャワールームとトイレといった一通り夜行で必要な設備がある。この窓口は当日空席があった時に限って発売されるもので、金曜日の今日は既に満席の表示がされていた。2階に上がると、ここはフロアの大半が待合室で、たくさんのコンセントつきの椅子と隅に自販機が置いていあるだけであった。この建物には売店が無い。さすがにJRの土地でJR関連以外の売店が営業することは許されなかったようだ。

 

22時48分。他の乗客あわただしくなってきた。もうすぐ改札が始まる。改札の奥には既に車両が止まっていた。

 

22時51分。31号の改札が始まった。改札口にはJRのような自動改札が存在せず、数人の案内員が備え付けの端末で客の乗車券に印字されたバーコードをスキャンしていく。どちらかというと飛行機に近い。他の客を見ていると様々な種類の乗車券を持っていた。コンビニで発券したもの、窓口で買ったと思われるもの、携帯の画面に表示したもの、紙に印刷した物などであった。これらの乗車券で事前に座席指定が行われていれば何も改札で受け取るものは無く、座席指定していない場合はこの改札時にスキャンした時点で座席番号が記載された紙が印刷される。

私のオンライン乗車券に書かれた座席は「7号車U8A」 Uとはいったいなんだろう。乗車位置へ進む途中にわかった。これは車両に起因するものであった。

 

22時53分。乗車。この車両は元JR215系であった。全車両が2階建てであり、持て余しがちの車両を購入したものであった。この2階建ての階上席がUであった。階下席はD、平屋の部分はFのようで、階上と階下では乗車口が分けられていた。

31号には複数の座席グレードがある。そのほとんどが今私の乗っている4列、バスで言うスタンダードであるが、格安であることからこのグレードでは椅子が回転するほどのピッチではないらしい。そのため逆方向向きの椅子が半数ほど存在し、こちらは私の席よりも安いようである。上級である3列あるいは2列の椅子は合わせても2階建て1両に収まるようであった。上級席だと椅子が回転するのでこれで十分なのだろうか。荷物置き場は平屋席の部分に設置されていた。荷物置き場にスペースを食われた平屋席は実質的にはコンパートメントのようであった。

23時ちょうど。東名阪エクスプレス31号は定刻通り池袋夜行駅を出発した。この時点では私の隣を含め3割ほど空席が存在していた。

 

23時10分。東名阪エクスプレス31号は新宿駅の1番線に到着した。ここでも乗車扱いを行う。なぜJRの埼京線湘南新宿ラインと同じホームで乗車を行うことができるかというと、この時間では既にホームが埼京線用としては使われていないようだ。通常使う階段やエスカレーターは既にシャッターが下ろされており、夜行列車を利用する客は一番代々木よりの、サザンテラス~高島屋を結ぶ歩道橋の上の改札から入場することとなる。なるほどよく考えたものである。

 

23時15分。新宿駅発車。これで車内はほとんど満席となり、私の隣の通路側にも人がやってきた。これから先は乗車扱いは無く、終点の大阪までノンストップである。チケットレス前提なのか、検札は目視程度であった。

アメニティを見てみると、夜行バス出自の会社であることからブランケットとWi-Fi、コンセントは用意されていた。4列席なので最低限であるが、コンセントがあるのはありがたい。

Wi-Fiに接続して出てきたポータルサイトでは、クレジットカード決済限定で車内販売を行っているとのこと。座席に貼られているQRコードをスキャンして注文することができる。試しにお茶を頼むと、3分ほどでやってきた。クレジット決済なのでそのまま受け取るだけである。よく見ると池袋で受付をやっていた人であった。聞くとそのまま大阪まで交代車掌として乗務するんだとか。池袋の簡素な駅には人材は最低限しかいないようで、どちらかというと航空機のようである。

 

 

 

 

 

X時YY分 静岡付近

 

少し速度が落ちたと思えば、停車していた。車内灯は減光されたままだが、ここで休憩を行うとのこと。夜行列車で休憩というのは珍しく、隣が降りたので私も降りてみることにした。

この休憩場所は静岡の貨物ターミナルの脇にあるらしい。トイレはなく駅から外に出ることはできないものの、ホームと喫煙所、そしてコンビニがある。このコンビニは駅の中と外からともにアクセスできるようで、夜行列車の休憩時間に限っては外側を締め切って内側だけで営業し、それ以外の時間は外側だけを開放し近隣住民のコンビニとして営業しているそうだ。よく考えたものである。

 

3時10分 休憩駅発車

 

 

 

 

7時34分 京都駅

ドアの開く音で目が覚めた。京都駅に到着していた。ここで2割程度の客が降りていった。向かいの線路には新快速が停車している。JR東日本と比べて西日本では割と気軽に駅を貸してくれるようだ。しかも京都駅では0番乗り場の広大なコンコースを活用し、夜行専用の改札を作ってしまったとのこと。駅放送でもそこを通るように案内されていた。

 

7時37分 京都駅発車

8時09分 新大阪駅通過

新大阪は停車できなかったようだ。停車してくれたら便利なのだが、新幹線の需要を食ってしまうのだろうか…

8時18分 西九条駅

終着放送が流れた。終着駅はユニバーサルシティ。といっても既存の駅ではなく、その東側に建設された10番線である。

 

8時25分 ユニバーサルシティ

終点についた。他の客は貨物駅の片隅から白いマストの駅舎へと向かっていった…