新しい風に乗って

過去の思い出を書くためのもの。VRM成分はありませんよ。

5000兆円貰った男

「人間。お前の願いは何だ?」

きっかけは些細なものであった。ある男が骨董品として買った怪しげなランプを磨いたところ、突如煙が噴き出し、中から人間のような物、時代によっては物怪扱いされているであろう物が出てきた。それは自身を魔神と名乗った。

「お前の願いを一つ叶えてやる。何だ?」

男は再度聞かれた。とっさに思い浮かんだであろうネットスラングを答えた。

 

「5000兆円欲しい!」

 

「お安い御用」魔神とランプは煙に巻かれ消えてしまい、後に残ったのは今まで見たことも無いようなお札1枚だけであった。森鴎外のような肖像画がかかれており、字面を見てみると金五千兆円と書かれている。

 

「なんだ、結局子供だましだったか」

 

男は思った。

ややあって、ふと興味本位でこの札について調べることとした。子供だましにしては透かしや偽造防止シールなど精密にできており、その上、玩具でありがちな子供銀行券ではなく、きちんと日本銀行券と書かれている。どうしても玩具でないような気がしたのである。

ネットで情報を漁っていると、男のかつての人生で得た知見と異なり、日本の紙幣には5000兆円札が存在することが複数の情報源で確認された。男は驚き、その見本画像を確認した。持っているお札と寸分違わない画像がそこに掲示されていたのである。

男は、5000兆円欲しいという要求の為に、魔神が世界を少し改変してしまったのだなとこの時思った。同時に、自分が本当に5000兆円手に入れてしまったことに気づいてしまった。

さて、一声で大金持ちとなった男は早速町へ向かった。実際に5000兆円札が利用できるのかを試したかったのである。男はフランクな服装のまま、近くディーラーへと向かった。

入店したと同時に、店内全ての人物からの視線を浴びた。身分不相応であると奇異な目線であろう。それにもかかわらず、男は一人の販売員に声をかけた。

「全部くれ」

販売員は鼻であしらう。当然の対応である。男は財布からお札1枚を取り出し、再度言った。

「全部くれ、金はある」

店がどよめいた。先の販売員は関係者を呼ぶためかどこかへと向かい、店の裏では騒ぎになっていた。

 

 

ややあって、おそらく店舗で最も重職であろう人物が男の前に現れた

「全部くれ」

しかし、現実は残酷であった

「申し訳ございませんが…当方では全車購入されてもお釣りが用意できません。」

 

男は諦め、店を出た。

 

その後、数店舗巡るも、どこも同じような対応である。無理はない、個人で5000兆円の釣銭は用意できないのである。そこで男は、預金することとした。預金すれば、キャッシュカードで必要な額だけ引き落とせるからである。早速近くの支店へと向かった。

 

しかしここでも、男の要求は叶わなかった。

「申し訳ございませんが…」

なんと利子が用意できないと言う。

よくよく考えれば当然のことである。仮に0.01%の金利だとしても年に5000億円の利息である。銀行が事業者に金を貸し付けた利子だけでこれを埋め合わせることは到底不可能であった。

 

結果、この日は男は5000兆円の恩恵を何も受けず、それまで持っていた現金を消費することとなった。

 

翌日、男がネットを漁っていると、トレンドに5000兆円という文字が浮かんでいた。興味本位で見てみると、なんと昨日の男自身の行動がアップロードされていたのである。

なんと、昨日巡った店の店員が、物珍しさから呟いたのだろうか。それが拡散されていたのである。掲示板では男の住所指名が既に晒されていた。そのためか、男の自宅に嫌がらせされるようになった。幸いにもオートロックが備え付けられていたもの、郵便受けや駐車スペースなど、被害は共用部分のいたるところであった。当然、この修理にも5000兆円は使えず、予定外の出費で男の生活は2日にして困窮した。

 

 

 

数日後、近所の河川で身元不明の溺死体が発見された。司法解剖によると、死語2日ほどであり、警察は事件と事故の両面性から操作を行った。遺体発見現場の上流300mでは、男の物とみられる荷物と、遺書が発見された。DNA鑑定の結果、男の物と判定された。

 

遺書には「5000兆円欲しかった」との書き置きと共に、5000兆円札が置かれていた…